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96.4.19
これでいいの?今の野菜




1.野菜が今、変わっている

 最近、野菜の味や栄養価が大きく変化している。自分が小学生の頃は、野菜の苦さや酸味に悩まされたものだが、今やそんな味を持つ野菜は珍しい。そこで、興味を持って調査したところ、以下のような変化の実態が明らかになった。

1, トマトが甘くされた
2, みかんが若い世代に敬遠されるようになっている
3, ほうれん草が旬を失い、ビタミンC含有量が激減した
4, きゅうりがつるつるになり、味は悪くなった

 まず、個々の野菜について、どう変化したのか具体的にみてみよう。

 トマトの味がこの10年で大きく変わった。一言でいえば「甘くなった」のである。現在、トマトの市場のほとんどを占めている「桃太郎」という品種と、「桃太郎」以前のトマトの味を比べたのがグラフ1である。このグラフは九州大学工学部の都甲教授が開発した味覚センサーによる測定をもとにしており、人間の主観による数値の変動はない。

 このグラフをみてまず気がつくのは、「桃太郎」の甘みが以前の品種に比べ2ポイント程度高いことである。反面、「桃太郎」は酸味、塩味、苦みの各項目が全て1〜2ポイント低くなっている。この結果、人間の舌にとって「桃太郎」は、大変甘いが単調な味がすることが想像できる。

 みかんの消費量が年々減少している。特に、若い世代のみかん離れが著しい。NHKの放送内容をもとに作成した世代別年代別みかん消費量のグラフが、グラフ2である。

(1979年の20、40、50歳代のデータはなし。)このグラフの横軸の年代は世帯主の年代であるが、1994年の20歳代の家庭の消費量は、同じ年の60歳代の6分の1にすぎない。しかも、60歳代の家庭ですら、この15年間に消費量を半減させている。この事実は、みかんが生産過剰になったことの一因にもなっている。

 ほうれん草に含まれるビタミンCの量が過去50年間低下し続けている。次のグラフ3をみてほしい。1992年の夏物のほうれん草に含まれるビタミンCの量は、1946年のおよそ10分の1である。グラフのもととなる数字は、必ずしも同じ測定条件とは限らないが、これだけ減少しているのは気がかりである。ほうれん草は、本来冬が旬の作物であるが、多くの野菜同様に今では年中入手できるようになった。

 ビタミンCが大きく減少しているのは、何も夏のほうれん草に限ったことではない。女子栄養大学の吉田教授の1992年の調査により、グラフ3が示すように多くの野菜の栄養価の低下が明らかになった。

 最近のきゅうりには味も歯ごたえもないように感じる。漬け物のきゅうりを食べるとぽりぽりという歯ごたえがあるが、生のきゅうりにはない。実は、漬物用と生食用では使われるきゅうりの種類が異なっている。今、市場を独占しているきゅうりは、「ブルームレスきゅうり」という種類である。「ブルーム」というのはかつて、きゅうりの表面に付着していた白い粉のことで、有害でも何でもない。一方、「ブルームレスきゅうり」にはこの粉はなく、表面が輝いて見える。

 しかし、ブルームレスきゅうりは実に比べて皮が柔らかいために、「ゴムをかむような歯ごたえ」と賞される程歯ごたえが悪い。



2. どうしてこうなってしまったの?

 こうして、現在の野菜と果物の変化を観察してみると、味と栄養価という、食べる人にとっての最大の価値がなおざりになっている印象を受ける。では、この変化は偶然なのか、それとも何らかの原因によるものなのか、調べてみた。以下に、その原因を箇条書きにしてみた。

1, 子どもの舌を狙う種苗メーカーによって甘くされたトマト
2, 「酸っぱい」から敬遠されるみかん
3, 市場拡大のために、適地適作を捨てたほうれん草
4, 見た目と日持ちで市場を制したブルームレスきゅうり

 まず、甘く「された」トマトについてみてみよう。トマトが甘くなったのは、京都のトマト種苗メーカーが開発した「桃太郎」という品種がきっかけである。このメーカーの担当者は、NHKのインタビューに対して次のように答えている。

 「甘いのを好むのは消費者だ。そうはいっても年寄りは狙わない。なるたけ幼い年齢、小中生を狙う。彼らは、甘いのを食べてしまうとそれに慣れてしまう。(子どもは)甘い食べ物に慣らされているから、何の違和感もない。もっと甘くても良いと思う。」

 つまり、甘い食べ物を好む子ども(小中生)だけを狙って桃太郎をつくった、というのである。では、なぜ、小中生の世代だけを狙い、しかも甘い味にしたのであろうか。この謎を解く鍵は、人間の味覚の特徴にあった。

 人間には、様々な味覚がある。しかし、個人によって好む味には大きな違いがある。同じ食べ物であっても、「酸っぱい」、「辛い」の感じ方は大きく異なる。同じ舌を持ちながら、なぜ味覚は個人差が大きいのであろうか。それは、味覚の中に、生まれた後の経験によって習得するものがあるからである。

 大阪信愛女学院短大の垣本教授によると、人間の味覚は10代後半、つまり、高校生あたりまでの食習慣で決まるという。人間が生まれて初めて口にする食べ物は、母乳である。母乳は、赤ん坊にとって甘く感じられる。そのため、人間は甘みを本能的に欲するようになっている。もちろん、赤ん坊は甘み以外の味も感じることが出来る。酸味は、自然界においては腐敗や酸化の進んだ食べ物の味である。そのため、赤ん坊は酸味を本能的に「いやな味」と判断し、嫌う。しかし、周りの大人が酸味を含む食べ物をおいしそうに食べるのを見てまねをするうちに、人間は酸味を「おいしい味」と判断するようになる。

 これを裏付ける実験結果がある。NHKが茨城県の石塚小学校4年1組の小学生を対象に行った実験である。実験を行ったのは、大阪信愛女学院短大の渡部助教授である。まず、甘い液から酸味の強い液まで4段階の溶液を作り、小学生にどの溶液の味を最も好むか調査した。その結果、最も甘い溶液に70%の人気が集中した。本能的に「欲する味」である甘みは、個人を問わずに子どもに受け入れられることがうかがえる。

 次に、5段階に酸味の強さを変えた溶液を作り、酸味をどの溶液で感じとれるか、調査する実験が行われた。この実験では、グラフ4のように、わずかな酸味でも感じることの出来たグループと、酸味に鈍感なグループに大きく分かれた。

そこで、酸味の強い食べ物の代表である梅干しとグレープフルーツをよく食べるかどうかが調査された。すると、グラフ4の上の4つのグループ(酸味を感じたグループ)では、梅干し78%、グレープフルーツ39%だったのに対し、グラフ4の下の2グループ(酸味を感じなかった、もしくは酸味に鈍感なグループ)は梅干し43%、グレープフルーツ7%という結果が出た。明らかに、日頃酸っぱい食べ物を食べさせられている子どもの方が、「酸味」という味覚が発達している。

 こうしてみると、子どもに好まれるトマトの条件は単純である。とにかく甘く、一方で酸味や苦みは極力排除されているトマトである。子どもにとって、苦労して酸味を克服する必要のない桃太郎が人気を集めるのは当然であり、一度甘いトマトを知ったらずっと甘いトマトを買うようになる。さらに、子どもに野菜を食べさせようと躍起になっている母親も、子どもが選ぶ桃太郎を買うようになる。最小の品種改良努力で最大の市場を見込んだのが、甘いトマト、桃太郎である。

 最近、みかんの消費が特に若年層で激減している。この謎を解く鍵も、やはり甘みと酸味の関係である。

 今の食べ物とみかんの味を比べると、意外な結果が出る。今や、野菜や寿司と比べても、みかんは相対的に酸味が強いのである。NHKの番組内で、都甲教授の味覚センサーを用いて作られた各食品の酸味と甘みの強さを示すグラフ5にそれが表れている。

子どもが嫌った野菜の代名詞であった人参ですら、みかんよりはるかに強い甘みを持つようになったのである。消費量が1974年から1994年にかけて7倍に増えた果汁ジュースも、みかんより甘みが強い。

 こうした子どもの本能に訴える甘い食べ物の増加に対して、みかんは苦戦を強いられているようだ。最近では「糖度13度以上」をうたうみかんが登場したりしているが、子どものみかん離れをくい止めるには至っていない。

 今から20年ほど前の1970〜1973年の東京中央卸売市場における、ほうれん草の月別平均単価を示したグラフ6は、8,9月に高い山を描いている。

この時代には、まだ夏のほうれん草栽培は一般的ではなかったからである。ところが、夏期のほうれん草の高値に目を付けた人々がいた。それは、都市の近くの狭い土地で近郊農業を営む農家である。通常、ほうれん草は10月頃に種をまいて収穫するまで5〜6ヶ月かかる。もし、5,6,7月にほうれん草を栽培できれば、わずか1ヶ月程度で収穫でき、土地生産性を大きく引き上げることが出来る。おまけに、通常の時期の3倍近い高値がつく。

 もちろん、夏にほうれん草を栽培するのには、多くの困難がつきまとう。ほうれん草は、元々冬が旬の作物である。ほうれん草は生来、冬に発芽し越冬して低温にさらされた後、春になって日が長くなることで花芽が分化し、夏の高温で茎が伸び(抽台)、開花する。葉を食用とするためには、抽台を防がなければならない。これに加えて、高温多湿による病害虫の発生と戦わなくてはならない。農家は、抽台しにくい西洋種の採用や早期の収穫、病虫害を防ぐ土壌と種子の消毒、乾燥を防ぐビニールハウスの導入などで、これらの困難を克服した。その結果、夏のほうれん草がほうれん草全体の消費を増やし、1992年のほうれん草の消費量は、10年前の3.5倍となった。

 しかし、ほうれん草本来の性質に逆行する夏期の栽培が、ほうれん草に含まれるビタミンCを激減させることになった。ほうれん草は生育適温が15〜20度、25度以上での生育は困難という、耐暑性に乏しい作物である。ほうれん草は糖からビタミンCを合成しているが、夏の高温で糖が呼吸に消費され、葉に残るビタミンCが減ってしまうのである。

 現在きゅうり市場を制している「ブルームレスきゅうり」は、なんと農家の側から市場に打って出た品種である。そのキーワードは「見た目の美しさ」と「日持ちの良さ」である。最初にこのきゅうりに目を付けた埼玉県の農家は、NHKのインタビューに対して次のように語っている。

 「これだと思いました。このみずみずしい緑が選ばれる。買うのにはまず目で見て、おいしそうに感じたものから(消費者は)買っていく。」

 日頃、工業製品のように長さと形の整ったきゅうりを作らないと市場に受け入れられなかった農家は、野菜が見た目で選ばれることを痛感していた。そこで、見た目の良いブルームレスきゅうりに飛びついたわけである。この読みは大当たりで、1987年に登場したブルームレスきゅうりは、わずか5年で市場を制覇するに至った。

 ブルームレスきゅうりが圧倒的に売れた背景には、店頭での日持ちの良さ、というもう一つの要素がある。ブルームレスきゅうりは、従来のきゅうりより実の水分が逃げにくく、店頭で従来のきゅうりより3日は長持ちするという。ブルームレスきゅうりについて、スーパーの販売担当者は次のように語っている。

 「おいしいだけでは商売にならない。(野菜の価値は)日持ち、見た目などの総合点で判断する。仮にブルームレスきゅうりの味が悪いということになっても、それに目をつぶれば商品としては悪くない。」

 この発言には、野菜がもはや食べ物としてではなく、「商品」として判断される実態が明らかに表れている。



3. 野菜の変化がもたらしたもの

 これまでみてきたように、現在の野菜の変化の原動力は、野菜の「商品価値」を上げようとする売り手の意志である。野菜を食べる側の人間は、よく分からないまま、黙って売り手の仕掛けた商品を買う羽目に陥っているようである。では、この野菜の変化が食べる側にもたらしたものは何だろうか。次にまとめてみた。

1, 人参などを子どもが食べやすくなった
2, 野菜のビタミンCの減少による潜在的ビタミンC欠乏症の広がり
3, 前の味(酸味)を支持する人もいるのに、前の味の野菜は入手困難
4, 急激な栄養価の変化に調査、表示が追いつかない

 まず、良い面を挙げるとすれば、野菜を子どもが食べやすくなったことが挙げられるだろう。野菜から酸味、苦みが消えて甘くなったおかげで、確かに子どもの口には合うようになった。

 その一方で、野菜のビタミンCの含有量の減少が既に日本人の健康に影響を及ぼしている、という指摘がある。帝京大学医学部の橋詰助教授が、埼玉県坂戸市の18〜58歳の職員40人に対して行った調査がある。この調査は、血液中のビタミンCの濃度をはかるもので、その結果、全体の22%の人が潜在的ビタミンC欠乏症であるという結果が出た。奇妙なのは、同時に行われた食事調査の計算上では、1人1日あたり129mgと必要量の2倍ものビタミンCを摂取していることになることである。この計算上のビタミンC摂取量の半分近くは野菜に依存しているので、野菜のビタミンCが計算値より少ないと考えられるのである。潜在的ビタミンC欠乏症は、直接の自覚症状が無くても、免疫やストレス耐性の低下につながるという。

 甘く、見た目のきれいな野菜や果物以外の選択肢が奪われつつある。農薬ゼミが販売しているみかんを食べた人の中にも、酸味を含んだ味を評価する声があるのが事実である。

 NHKが番組内で行ったトマトの食味調査がある。その結果が、グラフ7である。

ジュース用トマト、というのは、味の特徴が特にないトマトである。このグラフによると、41歳以上の層のかなりの部分が酸味の強いトマトを支持していることが分かる。

 また、漬け物業界は歯ごたえの悪いブルームレスきゅうりを嫌い、わざわざ中国から年間3万トン以上従来のきゅうりを輸入している。

 こうした従来の味を支持する声に対して、実態は大変冷淡である。トマトの品種のシェアを示すグラフ8は、市場が甘い桃太郎一色に染められていく様を明らかにしている。

 野菜の種は少数の種苗メーカーが寡占しており、メーカーが桃太郎中心に切り換えると、農家も桃太郎をつくらざるを得ない。これでは、市場に味の多様性を期待することは出来ない。

 現在、給食や食堂、店頭の栄養価表示の根拠になっているのは、科学技術庁作成の「四訂日本食品標準成分表」である。この成分表の調査が行われたのは、1982年頃であり、野菜の栄養価の変化に対応しきれていない。季節による野菜の栄養価の変化については、「成分の差異は、常に一定の傾向を示すとはいいがたく、露地栽培ものと施設栽培ものとに区別して収載すべきほど明確なものとは判断されなかった。このため、成分値については、これらを区別せず一括して分析値、文献値に基づき改訂した。」と述べているだけである。

 特に、学校給食では栄養価の目標と実態が一致しない結果を招いている。文部省では、給食一食あたり22mgのビタミンCを確保するよう告示している。しかし、1992年にNHKが女子栄養大学の協力で調査した例では、31mgを目標に作られた給食に実際に含まれていたビタミンCは16mgに過ぎなかった。身近なところでいえば、大学生協食堂の食品点数の根拠も「四訂日本食品標準成分表」なので、実態と一致していない可能性がある。また、スーパーでの栄養価表示も当てにはならない(夏のほうれん草100gに65mgのビタミンCがあると表示しながら、実際には10mgに過ぎなかった。)



4. では、どうすればよいのか

 ここまで、野菜の変化の実態、原因、結果を調べてきたが、この変化は必ずしも食べる人の期待と一致していない。この現状に、味、安全性といった食べる側の価値観を反映させるには、まず、実態を知り、食べる側から行動を起こすことが必要である。その上で、具体的な対策について考えてみた。

1, 食品成分表の改訂を早くし、調査結果を随時公表する
2, 食品成分表のみに頼らない、個々の販売者、食堂による栄養調査が必要
3, 良い売り手を探し、提携する

 まず、現在の野菜の栄養評価の基準となっている「日本食品標準成分表」の改訂を早くする必要がある。四訂版の発表から既に6年が経過している。野菜の栄養価がこの間に大きく変化している以上、変化の大きい部分については、部分改訂することも必要ではないのか。

 最近は、大手の小売店チェーンが自分で輸入した野菜を販売することが一般化している。こうした中で、いつまでも野菜の栄養価表示を「日本食品標準成分表」だけに頼るのは現実的ではない。野菜の品質を保証する意味でも、個々の販売店、食堂チェーンによる独自の栄養調査が必要である。京都大学生協食堂では、1996年3月から、油の吸収率や、栄養価の表示の改訂を実行していて、この姿勢は評価できる。

 トマトの食味調査の例をみるまでもなく、従来の酸味や苦みを含む野菜や果物を支持する人々は少なからずいる。しかし、普通に小売店で野菜を買っている限り、最も経済効率の良い画一化した野菜しか手に入らない。

 また、最近では、「省農薬」、「無農薬」、「有機栽培」といった食べる人の安全を求める心をくすぐる文句を付けた野菜が割高に売られている。こうした野菜についても、少なくとも「おいしさ」という観点から選別し、見かけ倒しのものを淘汰する必要がある。もし、自分の好む味を守っている販売店なり、生産集団を見つけたら、直接提携するぐらいのことを実行しても良いのではないか。

 最後に、食べる側自身が野菜の本当の姿を学ぶ必要がある。1992年でも、冬のほうれん草100gには夏物の3倍以上に当たる70mgのビタミンCが含まれている。野菜の旬や、見た目と鮮度の本当の関係、季節に応じて多くの素材を使い分ける調理法など、学ぶべきことは多い。



参考にした番組、及び文献
 四訂食品成分表、1990、女子栄養大出版部;グラフ2に使用
 四訂日本食品標準成分表、1982
 平成世の中研究所「異変大変野菜が変」、NHKテレビ番組;グラフ(1,2,7,8)に使用
 試してガッテン「賢い冷凍、解凍術」、1995.9.27、NHKテレビ番組
 今夜はあなたとミステリー「子どもがみかんを食べなくなった!?」、1996.1.19、NHKテレビ番組;グラフ(3,4,5)に使用
 野菜全書「ピーマン他編、トマト編、ほうれん草他編」、農文教編;グラフ(2,6)に使用



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